栄町でギリシャ神話を再現した話

 ミノタウロスは、ミノス王が犯した過ちから生まれた牛頭人身の怪物である。幼年期にアステリオス*1と名付けられたが、成年期には狂暴性を増し、クレタ島にある迷宮に放逐され、生贄として志願した英雄テセウスに討ち取られたという。
 

 どんな魔物が棲むとも知らぬ迷宮に自ら進んで足を踏み入れる人間を英雄と呼ぶなら、どうやらテセウスは大勢いるらしい。英雄が流した精液や金銭は、風俗嬢という触媒を通して性病に形を変え、妙に湿った迷宮から噴出される。仕組まれた爆薬は潜伏期間を経た後に爆発し、最終的に泌尿器科へと行きつく。そこでテセウスは愚息に安息を与え、また迷宮へと歩みを進める。こうして世界は循環するのだ。
 

 時は現代に戻る。光って鳴るピエロ*2から金銭をカツアゲした俺は、テセウスとなった。繁華街からモノレールで1駅行った先にあるクレタ島*3は、いつの日かメイプルストーリーで見たカニングシティと酷似していた。そこではカサンドラは客待ちの嬢、イベントガイドは無料案内所に姿を変え、迷宮へとつながる次元の扉はフリーマーケットのポータルのように設置されていた。そんな数ある次元の扉からモンスターパークを選択した俺は、受付に座っている覇気のないシュピゲルマンに幾ばくかの金銭*4を手渡した後、雀荘めいた待合室でしばらく待った後、エレベーターの前にいるように指示された。少し待つと、軽いアラーム音と共に安いルアーめいた光沢のネグリジェに包まれた倖田來未(廉価版)がエレベーターの中から表れた。美人であったが、風呂に長いこといたのであろう。ふやけて体積が増えていた。

 

 妙に湿度の高い廊下を抜けると、そこはテラリアのNPCの住居であった。

 ベッドや浴槽、マット、シャワーといった"ソープ"の判定条件を満たすのに必要最低限の物資が最低限のスペースに無理やり配置された空間がそこにはあった。究極に合理的。社会の歯車としての人間を突き詰めていくなら、究極系はこれなのかもしれない。話題は少し変わるが、ソープとは、男のプライドと嬢の範疇がぶつかり合う最小単位のコロセウムなのだ(読者諸兄にはスト2エドモンド本田ステージをイメージしていただければ想像に難くないかと思われる)。そんなコロセウムで起こった話や事件を事細かに語るのは野暮というものであり、戦士として恥ずべき行為である。決して思い出したくないとかそういうのではない。備え付けのローションがFortniteのスラープジュースに酷似してた話とか、マラトンの戦い*5で骨盤が鳥のエサよろしく粉砕されそうになった話とか、嬢が湯船に入ると大量の湯が消滅した話とかは本当にどうでもいい。大事なのは、俺がそこに行き、金を払い、戦ったということだ。決して思い出したくないとかそういうのではないのだ。

 

 テセウスは、父との約束を忘れたために父を失った。俺の場合、ランプ*6が光ったために腰が痛くなった。つまるところ、風が吹けば桶屋が儲かるのだ。人生なんてそんなものである。腰を気遣いながら迷宮から出ると、すっかり外は夜で、初夏の心地よい風が吹いていた。帰り道に食べたラーメンは妙に塩辛かった。幸いなことに、性病は免れた。

 

 

 

 

*1:星や雷という意味らしい

*2:マイジャグラー3という意味

*3:栄町

*4:17000円

*5:騎乗位という意味

*6:マイジャグラーの大当たり演出